エジプトの国民的麻薬「ハシシ」とは
愛煙家多数。革命の火種にも カイロ流交渉術⑤
カイロ大学のキャンパスや寮でも愛煙家をみかけました。「授業の前に集中力を高めるため」というのが学生の口実です。現代でも本気で取り締まりを強化したら、砂糖の暴動どころの騒ぎでは済みません。
実際、2011年のエジプト革命の火種はハシシという説もあります。その前年、エジプト内務省が「ハシシ取引の完全撲滅」を宣言しました。没収が相次ぎ、末端価格が高騰しました。さらには入手困難になり、愛煙家の不満が頂点に達するなか、フェイスブックにある動画がアップされます。
警官の一団が没収したハシシを独り占めにし、暴利をむさぼっていた実態を暴いたものでした。その様子を撮影したハーリド・サイードは警官の逆恨みをかい、ネットカフェにいたところを急襲され、無残に撲殺されてしまいます。
暴徒と化した警察は、サイードが息を引き取る前に、大量のハシシを彼の口の中に無理やり押し込んだと目撃者(ネットカフェのオーナー)が語っています。「ハシシの大量摂取による窒息死」(事件後の警察発表)にみせかけるためです。愛煙家にとって、他人事ではない事件です。権力に目をつけられたら、いつ何時、変死扱いされるかわかりません。
この事件の様子が別のフェイスブックにアップされ、革命運動への動員の発端となりました。庶民の楽しみを奪い取ろうとした権力側の腐敗、残虐性への怒りです。エジプト革命は一般には民主化運動といわれていますが、その広がりの根底にはハシシ愛煙家の存在もあったのです。
こうしたカイロの過激な一面をみると、さぞかし治安が悪い街なのだろうと想像されているかもしれません。しかし、そんなことはありません。靴紐をくすねるようなコソ泥はいても、人を傷つけたり、命を奪ったりするような凶悪犯罪は世界的に見ても少ないのがカイロです。